彼女がそこにいたこと:『EVE burst error』感想

EVE burst error R』をクリアしました。
※以下、重大なネタバレを含みます。

 『EVE burst error R』は、1995年にアダルトゲームとして発売された『EVE burst error』をコンシューマ移植したリメイク版である。
 菅野ひろゆき氏が手掛けた作品として名高い本作だが、菅野氏の作品は『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』しかプレイしたことがなかったため、もう一作くらい体験しておこうと思いプレイした。結果、『YU-NO』ほど夢中になってのめりこむほどではなかったが、それなりに楽しめたと思う。

〇マルチサイトシステム

 本作は天城小次郎と法条まりな、2人の主人公の視点を切り替えつつ進行する。「小次郎編」では探偵として絵画の捜索依頼を請け負うところから、「まりな編」では1級捜査官として要人警護を請け負うところから物語が始まる。一見無関係の物語がやがて『エルディア共和国』というキーワードで結ばれ、不可解な連続殺人事件を経てひとつの結末へと収束する。
 巨大な陰謀を複数の視点から暴いていくシステムは今ではそう珍しいものではないが、当時にしてはかなり画期的なものであったのだろうと思う。これが『YU-NO』のA.D.M.Sにつながると思うと感慨深いものはある。
 とはいえ、シナリオ内でマルチサイトシステムを活かしきれていない場面が多かったのが少し残念だった。黎明期の作品であるから仕方はないのかもしれない。データベースに2つの視点から同時にアクセスをして、協力して重大な情報を手に入れる場面は楽しかった。

〇シナリオ

 わたしはゲーム内の性描写が非常に苦手なため、リメイク前の性描写の残滓と思わしきシーンにテンポを崩されてしまい、サスペンス部分に夢中になりきれなかった。キャラクターとしては弥生のことをかわいらしく思っていたため、せっかく小次郎とよりを戻せたのに小次郎は次々と不義理を働き、どうしても弥生に同情してしまった(シナリオ進行上やむを得ないとはいえ、不義理を働く選択をとったのはわたしであるという点もまたつらい)。
 また、約25年前のシナリオということもあり、現代では古くなった価値観や倫理観に基づいた描写もあり、そこもややノイズとなってしまった。
 サスペンス部分の引きはほどよく、常に謎が撒かれている状態になっていたのが良かった。ひとつの国家の政治をめぐる話に帰結したため、各人の思惑と立ち位置を整理するのがむずかしかった。
 ただ、最後の謎解きはややアンフェアかな、とも思う。御堂真弥子がクローンだったという真相に自力でたどり着けたプレイヤーはかなり少ないのではないだろうか。特にまりな編では真弥子に庇護対象としての思い入れを抱かせるような展開が多かったため、疑いを抱くこともできず、真相にはそれなりにショックを受けた。ただ、二重人格で殺人を犯していたという展開はかなり好きな部類に入るため、最終的には受容できた。
 御堂真弥子の最期のせつなさが、本作の余韻をたしかなものにしているように思う。彼女はクローンであり、その本性は邪悪な前王を継いでいるのだとしても、彼女がまりなたちと交流して獲得した感情はたしかに「御堂真弥子」のものであり、彼女が殺人犯であろうとその尊さは毀損されない。

〇その他の雑感

 まさか終盤で推理を求められるとは思わず、ぼんやりとプレイしていたことをわずかに悔いた。『街』の桂馬編みたいだな、と懐かしく思う。
 ずっとプリシアのことを疑っていたため、はじめはプリシアが黒幕であるかのような推理を入力した。直後に真弥子の日記が始まりすべてを察し、笑ってしまった。
 つづけて『EVE rebirth terror』をプレイする予定です。