正義の相対性:『LOST JUDGEMENT』感想

 先日、『LOST JUDGEMENT』をクリアしました。
 ※以下、『LOST JUDGEMENT』、『JUDGE EYES』および『龍が如く7』のネタバレを含みます。

 『LOST JUDGEMENT』(以下『ロストジャッジメント』という)は、龍が如くスタジオの手掛けるリーガルアクションサスペンスゲームの第2弾だ。前作のキャラクターやシステムを継ぎながら、新たな要素を組み入れて新たな街での物語を描いている。

 前作をプレイしたときには、まさか続編が出るとは思ってもいなかった。それだけでもほんとうにうれしいのに、前作に引けをとらないシナリオをあの伊勢佐木異人町を舞台にしてプレイできたことはたまらない幸福だ。続編として完璧な出来でした。

○正義の相対性

 ロストジャッジメントの物語は、ひとつの痴漢事件からはじまる。現職の警官が起こしたその事件は証拠が完璧に揃っており、疑いの余地もない。有罪判決へ向かって粛々と進んだ審理が終結したとき、被告人が意味深な発言をおこなう。それは、数日前に発見された腐乱死体の正体を言い当てるものだった。
 痴漢事件、殺人事件、4年前のいじめ事件、そして13年前のいじめ事件。複数の事件が絡みあいながらひとつの思惑へ収束していくシナリオは、古田さんの脚本に期待していたとおりの展開だった。前作、『龍が如く0』、そして『龍が如く7』で味わった点と点がつながる快感は本作でも健在で、ふたたびすばらしい体験をさせてもらえた。 ひとつひとつの展開に驚かされ、納得したものだが、いちばんよかったのはラストバトルだ。ラスボスを倒したあとに待ち受けているラストバトルが、前作から通底するテーマを象徴するものであるように感じた。
 「誰かが苦しむこととなっても、真実を明るみに出すべきだ」という八神さんの正義と、「ひとを守るためにあえて真実を闇に葬るべきだ」という桑名の正義は、作中で幾度も幾度もぶつかりあう。いじめの復讐を為している桑名の正義には共感できるところもあり、どちらも正しいように感じられる一方で、どちらも誤っているように思えてしまう。どちらも各々の立場からエゴを叫んでいるだけであり、守りたいもの/救いたいものが異なっているだけだ。
 絶対的な正義などないことは、今さら語ることでもない。法は不完全であり、たったひとつの「正しい答え」などない。だからこそ、ラストバトルというかたちで物語のなかでの落としどころを見つけてくれたのがよかった。どちらの主張が正しいかを決定づけるのではなく、純粋な殴り合いで勝ったほうの正義が通った結末は、押しつけがましいところがなくてよかった。
 闇に葬られかけた真実たちは白日のもとに晒されたが、それでも桑名は闇へと消えていった。それを八神さんが良しとしたのは「真実を明るみに出すべき」という主張とはやや矛盾するかもしれないが、人間らしさを感じてよかった。法に拠り、法の可能性を信じる立場(バトルやピッキングをはじめとした数々の違法行為はさておき……)である八神さんは、その立場と信念を描くうえでともすれば非情にもなってしまいそうだが、桑名を見逃したことでバランスがとれていたように思う。彼は、桑名を死なせない道を一貫して選んでいた。そこには、前作で喪った命への人間らしい後悔がにじんでいるように思う。

○街は生き続ける

 ロストジャッジメントの舞台である伊勢佐木異人町は、『龍が如く7』で80時間以上駆け回ったあの街だ。東城会が解散した『龍が如く7』のあとの街には、あの作品で起こった出来事や出会ったひとたちの痕跡がかすかに残っている。
 本作のラスボスといえる相馬が率いる半グレ組織・RKは、東城会が解散して行き場を失った者たちの受け皿として生まれたという設定が非常にうまいなと感じた。東城会の解散というクリティカルな出来事をどう扱うか気にかかっていたのだが、シナリオにきっちり組み込みつつ整合性をとっている。そのリアルさに、街の呼吸を感じた。
 そのほかにも一番製菓が元気に営業していたり、公衆トイレの奥にはカジノがあったり、オモニの誓いには抜け道があったり、『龍が如く7』の冒険を想起させるうれしい仕掛けが点在している。わたしはとにかく『龍が如く7』が大好きなので、感無量の思いだった。

 へへ 趙さんの料理は神ゲーをさらに神にしてくれる

 鉄爪はそんなことを言っていないが、あの佑天飯店での一幕ではそう思わざるを得なかった。あの趙さんが!おいしい料理を作ってくれている!こんなにうれしいことがあるだろうか?
 もしかしたら、八神さんが駆けずりまわったあの街のどこかで、春日一番たちも楽しく生きているのかもしれない。そう思わせてくれたことが本当にうれしい。
 でも若はいないんだよね……。

○あたらしい要素たち

 様々な要素が追加されていたが、中でもユースドラマが楽しかった。主に豊潤なオイル不足のせいですべてはクリアできなかったが、部活動らしからぬものも含まれていておもしろかった。ガールズバーをそこに含めていいのか?という突っ込みさえ楽しいものだ。
 戦闘下手なこともあり、新バトルスタイルの「流」は活かしきれなかった。結局のところ、雑魚敵を円舞で蹴散らし、ボスを一閃で潰すやり方に慣れきってしまったのかもしれない。

○その他の雑感

 街を共有することによる『龍が如く7』との関連は先述のとおりだが、キャラクターを引き継ぐことによる前作との関連もとてもよかった。なじみのキャラクターが次々と登場し、最終戦ではいつものメンバー(八神さん、海藤さん、杉浦くん、東さん)となったのもうれしい。特に序盤は東さんがぜんぜん出てこなかったものの、途中からしれっと参加していつのまにか異人町にまで来てくれてうれしかった。
 「モグラ」という章タイトルや、「真実を明るみにする」姿勢を見せる八神さんに向けた杉浦くんの声のトーンなど、前作の物語を経験しているとわかる意図や感情の潜ませ方もうまい。特に後者は、言葉にすると野暮な感情を映像と演技だけで伝えているのがすばらしく、胸がつまった。

 エンドロールも含めて、最高の続編でした。待っていた甲斐があったと心から思います。
 しばらくはクリア後の探索をゆっくり楽しみつつ、また『龍が如く7』をプレイしようかな。